紹介する日記

好きなものことを紹介したりしなかったりします

雪舟えまさん/クッキーとタフィーのこと

 

Twitterに書ききれなかったのでブログにしました。

なんか思いついたら書いていこうと思います。はい。

 

https://sheishere.jp/column/201712-emmayukifune/

このサイトに2017.12.25にて公開された歌人雪舟えまさんによる連作「クッキーとタフィー 〜緑と楯の歌〜」の歌を引きながら感想を書いていきます。

順番はたまにずれています。引いてない歌もたくさんあります。ので上のサイトを見たらちゃんと読めて楽しいです。

はじめます。

 

君をつれ帰る気分でアスパラの手を取るごとくかごに入れたり

 

男性の手とアスパラの節のある感じの親和性に着目したのがすごいし、君の手が細いってことがふんわり伝わるのが良い
「気分で」「ごとく」の婉曲的な伝え方が心に優しい、アスパラに例えられる君も体に優しい。ウケる。

 

 

恋人はなにかおいしいときにだけ興奮をする大天使かな

 

大天使です。最高。

 

 

ふつかめの野菜こんがらがりカレーおすすめですと澄ました顔で

 

愛しい。絶対手抜いてるやろ~昨日と同じやつ〜いや二日目が美味いんだって~といちゃいちゃしたい。

 

 

おれたちは閉じてる? 二対九十億のゲームくらいに開いているさ

 

関係性が社会に向かって「閉じてる?」というところに点差がえげつない開いてるぜって人口を用いて返す面白さ。
二人対人類になってることから、ゲイ・セクシュアリティが閉じてるというのでなく、自分たちゲイカップル二人の、愛し合う二人の世界観を語っていて、良い。
やっぱり閉じてるより開いてる方が良いし、それがウィットに富んでたらもう素晴らしい。

 

 

おしっこと出発直後にいう奴よ長男タイプというはまぼろし

 

車乗って出かけた瞬間におしっことか言ってね。いやお前出る前にしっかりしとけよ!ってやつね。わかる。微笑まかわいい。

 

 

はつなつの足きっちりと交差して信号を待つXの女よ

頬に雨 Xのうち何割がトイレをがまんしてるのだろう

 

連作に唯一出てくる二人以外の人間、Xの女(ちょいちょいいる)。何で足交差して立ってんだろうねって不思議感とXの親和性がいい。
また、もしかしたら、彼らにとっては女はわからないもの、異物のようなものなのかもしれない。でもそれが恐れるべきものや触れ得ざるものになるのでなく、興味を引く、ある種コミカルな対象となってるのが優しい世界だよね。

 

 

あの二本の木は何かの門かしらきみと通らば楽園の門

 

頭ハッピーすぎて良いですね。連作中トップレベルに好きです。ただ、今は楽園に入れていない、という現状に少し物悲しさがあるような気もする。ないような気もする。(現実は楽園ではないので)

 

 

君よそのキャンディ包みを解くようにかたくなな耳引っぱってくれ

 

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参考画像です。優しいですね。はい。
ここでいいのが己の頭をキャンディに喩えていること、「かたくなな耳」を引っぱって解いてほしいと言ってることですね。
かたくなで言うことを素直に聞けない自分が嫌だからこそ解いて欲しくなるわけで、その象徴である耳をひっぱってほしいわけで。耳をひっぱるって大人が子供を叱る時にやるイメージがあるから、それを付加しても読めますよね。
かたくなな自分の外皮を解いてもらって、中を見てもらって、あわよくば(キャンディのように)食べられたい、まで想像しました。空気感で伝えてくるのがBLみがありますね。ありませんか?ならいいです。

 

 

君が君に似たケーキを食べていて全年齢の面影がある

 

この二首並んでるの、雪舟えまさんのエロをふわっと漂わせてる感じがある気がする。全年齢ってワード選びは狙ってるでしょう。全年齢って言われたらもう18禁て言葉が対応してくるじゃないですか。俺だけすか。

 

 

運命かもしれないと言い石けんを見せるは土曜の朝の化身

運命の石けん 浮気するでしょう素敵な石けんだらけの星で

 

雪舟えまさんの作品に出てくる星は、本当にいい。
るるるっとおちんちんから顔離す 火星の一軒家に雨が降る/『たんぽるぽる』同作者
これもいい。雪舟えまさんの考える宇宙はすごい。

 

 

室内が謎のすばらしさで満ちてなんだこれはと両手など見る

 

共感できる。本当に本当に素晴らしい時間を感じた時に、幸せ、すばらしさのキャパオーバーが起きて何だこれはとわからなくなる。思わず実存を確認するために両手を見てしまったんだろう。大丈夫、君は生きていて、すごく幸せなことに驚いてしまっただけなんだ。
この歌で言われるまで言語化できなかった感覚で、言われてふとわかった。こういう短歌は本当にすごいですね。生活を改めて紹介する短歌はすごいって誰かも言ってました。誰かは忘れた。

 

 

おしゃべりはだめか言葉にしなければすべてがあるとおまえは笑う

 

言葉は結局記号なんですよね。みんなで作ったコードに則ってみんなで決めた言葉の型に、枠にはめてコミュニケートする。その成り立ちというか使い方からして自分の感情や意思をそのままに伝えることができない。めちゃくちゃ上手な人はうまく伝えるけど、伝達率は100%になり得ない。以心伝心なんて構造上無理なわけで。
「言葉にしなければすべてがある」。表現以前の物には無限の可能性があって、何にでもなりうる。言葉の枠にはめて伝えるよりも高度なコミュニケーションを誰かと取れることはとても幸せですね。
蛇足ですが、言葉にして伝えることもまた非常に重要なので、日頃から感謝や愛や怒りは上手く伝えましょう。皆さん良いコミュニケーションを。

 

 

おたがいに灸をすえあう夜きみががまんをやめる練習を兼ね

 

喧嘩かな?喧嘩まで行かないけどダメ出しのしあい的なやつかな?
他人と交際するってことはやはり何かしらのストレスが必ず生じるもので、それを我慢しちゃう人っていますよね。こういうとこ嫌だけどやっぱいい人だし、やっぱ好きだし、みたいに。
「きみががまんを」しちゃう人っていうことを理解してあげて、それを少なくさせる為に、「灸をすえあう」人、すごくいい人、と思いました。

 

 

あついっていえてえらいね君の腰のもぐさをのけて麦茶をあげる

 

次の歌です。もぐさはお灸のときに使うあれです。慣用句じゃなくてマジお灸やったんかいと思ったけど比喩でしょうね。いやマジお灸してても愛らしいけど。
がまんせずに嫌なことは言う、「あついっていえ」るようになった君から、嫌なことを取り除いてあげて、そっと優しくする。練習成功ですね、いい関係。唐突に思いついたんですけどこれもしかしてセックスじゃないですか?

 

 

もう一度がれ何度でも鮭べ夜空の網にふたりでかかれ

 

これはセックスです。セックスをコミカルに表現するのいいですよね。雪舟えまさんは言葉遊びというかだじゃれというかのあどけない愚かしいあざといめんこさをすごく上手に使ってきて、打ち抜かれますね。
鮭→網、☆→夜空の網のかかり方も憎らしく、だじゃれを使っても愚かしくなりすぎない感じがいい。

 

 

「おやすみどり」「またあしたて」と体内がまぶしいままで眠っていける

 

さっき言っためんこさ、まさにこれです。ユーモアとあざとさとめんこさが混ぜこぜになって、こんなことを言って眠りにつく夜の多幸感は半端ない。だじゃれはシャブ。

 

 

むかしむかし缶をこぼれたクッキーとタフィーがあって、それがおれたち

 

何も言えねえ、好き。

 

 

以上です。